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スノーブーツが原因に?腰痛と歩行の関係
- 2022年05月13日
- 今年の最初のテーマとして、日常生活や仕事が原因で腰痛を発せられる人をご紹介してきました。
今回は、腰痛の中でも稀に見られる珍しい症例をご紹介しております。
いずれの症例も診察では普通に見られる腰痛でしたが、起因となる行動(又は患者さん本人の思想)が原因で、完治に期間を要したものでした。
患者さんも腰痛の消退が見られたため、腰痛の再発予防を試みたにも拘らず、私が思いもつかなかった行動を取られたことが腰痛の再発を招いた原因でした。
先月は例外的に痛みの原因が内科疾患の人でしたが、中には私が「そんな事をされてたんですか?」と言いたくなる様な人もいます。腰痛にお悩みを抱えていた農家Aさん
Aさんは39歳の農業を営んでいる男性で、ブランド野菜の栽培をされています。
Aさんの作る野菜は露地栽培で、関西圏だけでなく外国にも出荷しておられるそうです。
ブランド名を知れば、多くの人が一度は聞いたことのある野菜で、高級料理店で食べたことのある方もいらっしゃるでしょう。
主訴は背腰部痛で、関連痛では首や殿部にも時々痛みを感じられるようでした。
Aさんは中肉中背の体型で、下半身の諸筋肉が若干未発達と言える状態でしたが、異常とまでは思いませんでした。治療の開始
農作業中に屈曲姿勢を取られる事が多いためか、全ての胸腰椎が後方に飛び出しておられ、股関節は後方挙上はおろか直立姿勢もできません。
背腰部・殿部・大腿部の諸筋肉は硬く固まって、私が軽く指で押す圧力でも痛みを感じられるようでした。
ベッド上では腹臥位姿勢が難しく、仰臥位でも背や腰に痛みを訴えられました。
仕方なく左右の側臥位姿勢で、まずは下半身の諸筋肉の緊張緩和を図ろうとするのですが、Aさんの痛がり方は尋常ではありませんでした。
そのため、時間をかけ、幾種類かの軽擦法を使いマッサージを行い、その後に運動法と揉捏法を繰り返したことで股関節と膝関節の完全伸展が可能になりました。
結果、腹臥位姿勢が可能になり、頸肩背部の施術を行うのですが、やはりこの部分にも鋭い痛みを感じられるようで並みの治療は行えませんでした。「これが普通」・・・肩こりを感じたことがなかった
原因は左右の肩甲骨の内側に存在する菱形筋や僧帽筋が、肩甲骨の背面に或棘下筋と癒着していることでした。
Aさんは今まで肩凝りを感じたことが無かったようで、肩の動かし難さも腕の可動域制限も「これが普通」と思われていたようです。
当たりの広い軽擦法や揉捏法で遊離は果たせたのですが、今まで不自由を感じておられなかったAさんは、背中や肩が楽になったのかどうかは判然とされないようでした。
しかし、関節可動域が回復したことや、更に腹臥位姿勢が楽になったことは感じているようで、「何か肩と背中が軽くなった気がする」とおっしゃいました。身体の自然なカーブを取り戻す
その後の脊柱矯正術では、直立姿勢が取れるようになりましたが身体の自然なカーブを取り戻せたわけではありません。
歩行に関しても小股でチョコチョコと歩かれますが、当院に来られる前までの痛みは完全に消えたようでした。
しかし、帰宅して農作業をすると、日を待たずして痛みが再発してしまうそうです。
一週間後の来院時には、胸腰椎の飛び出しが再発しておられましたが、初診時よりは軽度なものでした。
当日も前回の治療と同じ方法で施術しましたが、一度諸筋肉の弛緩が果たせたAさんは以前ほどの痛みは感じられなかったようでした。
初診日から四度目の来院日には身体の自然なカーブを取り戻せましたが、この身体の状態を維持させることが再発予防の要となります。
今回、身体の自然なカーブを取り戻せたことによって、股関節や膝関節に関わる諸筋肉が緩み、関節可動域が回復、大股での歩行も可能になりました。悪癖の再発
Aさんには腹臥位での背腰部の柔軟運動と大殿筋の筋力強化を図る運動を指導し、一日最低三度行なうように指示しました。
通院頻度は二週間に一度、しかし身体のどこかに痛みを感じれば直ちに来院するようにと伝え、一ヵ月半を過ぎる頃に私はAさんの異変に気がつきました。
なぜか一度は治ったはずの小股でチョコチョコ歩かれる悪癖が再発していたのです。
四度目の来院時以後の帰宅される際や、五度目以後の来院時は普通に中股で歩かれていたのに、八度目以後の来院時には悪い歩き方が再発していました。
この歩き方では上半身が前傾してしまい、背腰部痛が再発してしまいます。
しかし、「以前とは違う何か別の作業をしてますか?」と問う私に、Aさんは「何も変わりません。以前と同じ作業です」とおっしゃるのでした。
「では、足の筋力強化運動もやってください」と運動方法を指導し、当日以後の予約をお取りいただいて、ご帰宅されました。原因はスノーブーツだった
その後の再診時に状態を確認したところ、前回運動方法を指導したにも拘らずAさんの小股で歩く悪癖が再発していました。
これでは「もう来なくて良い」とは言えず、治療の継続の必要性を説いて、その後も通院していただきました。
小股で歩く悪い歩き方に改善が見られたのは更に一ヶ月を過ぎようとしていた頃でした。
なんと、前回指導した歩行が維持されていたのです。
そのため、Aさんに「八度目の来院時辺りから、今回の間に何か変わったことはありませんか?」とお尋ねすると、「ひょっとして長靴かな?」とおっしゃいました。
どうやらAさんは降雪期以外にはゴム長靴、降雪期にはスノーブーツを履かれているようした。
雪があまり降らない地域ではご存じないと思いますが、スノーブーツは通常の長靴とは違い丈が長く、上端を紐で縛り、雪が長靴の中に入るのを防ぐ形になっています。
Aさんはお仕事の都合上、耐久性のある重いスノーブーツを履いておられたそうです。
つまり、重いスノーブーツから軽い長靴に変わったことで小股でチョコチョコ歩く悪癖が改善されたようなのです。
Aさんには現在の運動を続けていただくことと、次回の降雪期の来院をお勧めし、継続治療を終了しました。まとめ
なぜ、歩行が小股だと身体の自然なカーブが失われるのかを説明します。
人は歩行時に進行方向に体重がかかるようになっているため、身体の重心が前方にかかります。
そのため、小股で歩くと言うことは、股関節の完全伸展ができていないと言うことになります。
この状態を横から見るように考えてみます。
正常な身体のカーブがSの字をしているとしたら、Aさんの身体のカーブは股関節から上は前方に倒れ、膝が完全伸展できないため歪なSの字をしています。
そのため、この歩き方では胸腰椎がやがて後方に飛び出し、個々の椎骨の可動性が失われ、左右の筋肉(特に脊柱起立筋)が伸展を余儀なくされた状態を維持してしまいます。
常時伸展を余儀なくされた筋肉は、血液の供給が充分に受けられず、脳にこの状態を伝えるため、異常を起こしている部位を痛みとして伝えます。
以上のメカニズムで背腰部痛が再発するため、私はAさんの歩行に拘ったのです。
丈の長いスノーブーツは、膝辺りを紐で縛り、膝関節や足関節(足首)の可動域を束縛します。
一般の人がスノーブーツを履かれるのは外出の際だけですが、ずっと外で作業されるAさんの場合は、膝や足首をロックしてしまう時間が長くなるわけです。
昨年暮れや今年の冬季は例年にない積雪でした。
通年の積雪でしたら、通常のゴム長靴でも農作業は可能でしたが、今期の積雪は尋常ではありませんでした。
当地域よりも北方にある長浜市や米原市、彦根市などは観測至上最大の積雪に見舞われたほどです。
今回のAさんは露地栽培の野菜作りをされていたため、丈の長く重いスノーブーツを履くことを余儀なくされていました。このことが歩幅が狭くなった原因でした。参考までに
僧帽筋とは、項から背中にかけて皮下にある筋で、左右合わせると大きな菱形で、体表からは肩を後内方に引くと観察できる筋肉です。
左右の筋肉を見ると、まるでお坊さんのかぶる帽子の形に似ていることから、僧帽筋と言う名前がついたようです。
この筋肉の全体が作用すると肩甲骨が脊柱に近づき、上部や下部の一部が作用すると肩甲骨を回旋(傾け)します。
上部の繊維だけが働くと肩を窄める運動をし、下部の繊維だけ働くと肩甲骨を脊柱に近づけながら引き下げます。
菱形筋とは、肩甲間部にある平行四辺形の筋肉で、僧帽筋に覆われています。
作用は肩甲骨を内上方に挙上させます。
棘下筋とは、大部分は三角筋に覆われているので、動作しなければ観察できません。
上腕を外旋させながら肩甲棘を触れると、棘下筋の動くのを確認できます。
作用は上腕の外旋です。
脊髄起立筋とは外側から、腸肋筋・最長筋・棘筋で構成される上下に長い筋肉です。
腸肋筋とは、腸骨から仙骨(左右の腸骨の間に存在する骨)を経て第3から第12肋骨にはじまり、全ての肋骨や第4から第7頚椎に達します。
最長筋とは、腸骨や仙骨・第5頚椎から第6胸椎にはじまり、第2から第6胸椎・全ての胸椎に達します。
棘筋とは、下位頚椎・上位胸椎にはじまり、数個上位の椎骨に達します。
3筋合わせた脊柱起立筋の作用は、1側が働けば脊柱をその側に曲げます。
両側同時に働くと、脊柱を後ろに反らせます。
そのため、背が丸くなると脊柱起立筋が伸展を余儀なくされます。
この期間が長くなるほど筋力が失われ、本人がいくら背を正そうとしても不可能になるわけです。
腰椎が後方に飛び出すと、歩行時は前方に転倒することを避けるため、股関節や膝関節は屈曲を余儀なくされ、睡眠時は仰臥位での姿勢が苦しくなります。
その結果、横を向いた姿勢で眠ることになり、更に背腰部は丸くなることで胸腰椎がもっと後方に飛び出すことになります。
永年この状態を続ければ、可動性が失われた胸腰椎同士が、上位や下位の骨の癒着に至り、肩甲骨内側の菱形筋や僧帽筋、棘下筋などが筋肉同士の癒着を引き起こします。
以上のようなことから、一度自然なカーブを取り戻すことができても、再発予防の運動が必要なことはお判りいただけるでしょう。
著者プロフィール

兼田 茂和
国家資格あん摩マッサージ指圧師保有。
日常的に抱えている慢性痛に対し、その痛みの原因を追究して根本を改善することで、痛みの軽減を目指します。日々、人の命を預かる重みを感じ、ひとりひとりに合った施術で、最後まで誠心誠意施術致します。
WEBサイトの営業電話はお断りしております。