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「締め付ければ細くなる」は逆効果?着衣と浮腫
- 2022年06月16日
- 治療が完治し、再発予防を試みたのにも関わらず、思いも寄らないことが原因で、再発予に期間を要した症例、今回は第6段です。
先月は農業従事者の人が、作業中に履かれる長靴をスノーブーツに換えられたことが原因で、ご本人は「こんなことで」と思われ、私に告げられなかったことが治療に期間を要した原因でした。
今月は比較的に若い患者さんで、私が「何で?」と首を傾げる羽目になった人です。足の浮腫が原因で腰痛に悩まされた人
Nさんは19歳の女性で、隣県の専門学校で医療に携わる仕事に就こうと勉強をされてます。
実習中の立位姿勢が辛く、お母さんにその事を告げて近所の人の勧めで当院を訪れられました。
問診では椅子に座った姿勢では何の問題も無いのでしたが、実習中に数分立っていたらその姿勢が辛くなり、最初は腰、次にお尻から足全体が辛くなると言うものでした。
当院を受診される前に 整形外科クリニックを受診されたのですが、「異常無し」と診断されたようでした。
「これでは希望する職業に就けないのでは?」と将来の展望に不安を持たれての来院だったようです。
触診では上半身はやや痩せ気味でしたが、驚くことに殿部から下の下半身は太く、皮膚ははちきれんばかりにパンパンに張っています。
足首も太く、足関節の可動域を測ろうとしても硬く、「力を抜いてください」とお願いしても殆ど動きません。
Nさんの下半身は浮腫が原因でしたが、ご本人は太っていると誤解されていたようでした。
身体のカーブはと言うと、大きく崩れているとまでは言えませんが下位胸椎から全腰椎が真っ直ぐになっており、立位姿勢で腰が辛くなる原因が判明しました。
本来の自然なカーブでは、下位胸椎から全ての腰椎は前方に彎曲してなければなりません。
しかしNさんの現在の姿勢では、腰部脊柱起立筋に余計な負荷が罹り、数分で筋肉が筋力不足をきたして、痛みとして脳に腰の異常を伝えるはずです。
それでも治療は容易で、硬く固まっている脊柱起立筋を緩め、脊柱矯正を図ることで簡単に整復が図れました。筋肉の弛緩が果たせたことで関節可動域も回復
後は背腰部の諸筋の筋力強化で腰痛が抑えられるはずですが、まだ自然なカーブが失われる原因も取り去らねばすぐに再発してしまいます。
自然なカーブが崩れた原因が下肢にあると考えた私は、まず浮腫を取り除く必要性を説き、レディースマッサージを紹介しようとしたのですがお母さんが納得されません。
「複数の医療機関を何度も通う必要があるのか」と言うことでしたが、若い女性の微妙な箇所も直接地肌を摩る必要がありましたので、私は施術に躊躇したのです。
ご本人も「できたらここでお願いしたい」とおっしゃったため、私は仕方なく承知したのですが、後で後悔する羽目になりました。
今までには何度も女性の大腿部の擦過傷の治療で施術を行ったことがあるのですが、それはNさんよりも若干年配者でしたので、それほど気遣いも無く行なえました。
Nさんの太腿はいきなり下着を圧するほど腫れていて、下着の生地が裂けんばかりに膨らんでいます。
当然内腿は擦過傷を生じていて、瘡蓋や擦れた皮膚片が痛々しいものでした。
「今日はこれまで」とマッサージを終了する頃には、私の掌はジンジン熱くなって、肩や肘も限界を感じていました。
以後の下肢の諸関節の可動に関わる諸筋肉を緩めた頃には、私の体力は消耗し、次の患者の施術に耐えられるのか恐怖を感じたものでした。
ひとまわり細くなった太腿は両膝を密着させても、股間部に私の指二本分の隙間ができており、お二人は「信じられない」と言う顔をされてます。
Nさんやお母さんは腫れが弾いた足に満足されたようで、緩くなった下着の締め付けを幾度も確認されてました。
筋肉の弛緩が果たせたことで関節可動域も回復し、これで正常な歩行が可能なら治療は終了するのですが、そうはいかないようでした。
その後ベッドから立ち上がっていただき歩行を確認したのですが、Nさんはまるで幼児が歩くようにドタドタ歩かれます。
どうやらNさんは股間を開く歩き方が癖になっているようで、この歩き方では下肢の諸関節の可動の妨げになり、時をおかず緩んだ諸筋肉が硬くなるのは間違いないことでした。
「まだ下肢が腫れていた癖が治らないのか?」と考えた私は、次にベッドを最大限まで上げ、ベッドの天面を掴んで足踏み運動をしていただきました。
ですがNさんは膝は高く上げられるのですが、何故か爪先で着地せず、踵をドンドンと床に叩きつけられました。
私は「まだアキレス腱が緩んでないのか?」と、立位姿勢のままで弛緩術を試みましたが、以後も他動的には足関節の可動は可能でも、自動的には不能でした。
以上のことからNさんには、爪先立ちでの歩行を指示し、私が次の患者さんの治療を終えるまで、屋外での歩行運動をお願いしました。
お母さんには監督をお願いし、休憩の時以外は踵が地面に触れないように注意していただきました。
再び私の前に来られたご両人は、明るい声で「歩き方も治ったようです」と喜ばれ当日はそれでお帰りになられました。腰痛の原因になっていた悪癖と浮腫が再発
それでもう来られなかったら問題が無かったのですが、四日後に再来院された際は何故だか再びNさんの姿勢が崩れ、以前のように股間を広げて歩かれます。
腰痛は訴えられませんでしたが、現在の姿勢が続くとやがて腰痛が発症するのは間違いの無いことです。
外では靴を履き、爪先に重心をかけて歩くことに問題が無かったようでしたが、屋内ではスリッパを履くことで膝関節が屈曲したままになり、悪癖が再発したようでした。
常に膝関節が曲がったままで歩行したため、足関節も固定し踵に体重をかけた歩きになったものでした。
ですから再び前回の治療を行なったのでしたが、幸いにして運動法や揉捏法が必要でも、マッサージはそれほど必要ではありませんでした。
幾度か通院を繰り返していただき、四度目の来院時には「もう治療は必要ないのでは?」と私が思っても、日を置いて五度目の来院時には再び下肢の浮腫が戻っていました。
歩きはドタドタと、椅子に座れた途端、大腿部を摩られます。
初診時同様、下着の足の出る部で太腿の膨らみが見られ、擦過傷とまではまだ言えないものの、下着の生地による圧痕や汗によると思われる湿疹も見られました。
施術は容易でしたが、今のままでは通院を終えられません。根本原因が判明
やはり下着の締め付けが原因と考えた私が「もっと余裕のあるものに替えては」と下着の足の出す部に余裕の或ものを勧めました。
お母さんも同意見で、「パンツの種類を換えれば?」と説得され、しぶしぶNさんも納得されてお帰りになられました。
六度目からは順調で、浮腫による腫れは顕著に軽減し、爪先に重心を置いた歩きも見られたことから「また再発したら来てください」と治療を終了しました。
結局当院への通院は六度目が最後で、下着に問題があることをNさんが
早期に判断できればもっと早く治療が終了できたのです。
若い女性の着衣への拘りが問題だった症例でした。まとめ
前述のごとく、Nさんの腰痛の原因は下肢の腫れがそもそもの原因で、擦過傷の痛みを避けるため、股間を少し開いた歩きをされていたからでした。
まるで幼児がオムツを履いたような歩きにより、ドタドタ歩いていたため下肢の諸関節の可動域を狭めるため、関節の可動に関わる諸筋肉は硬くなって萎縮をきたしたようです。
なのに「自分は下半身が太っている」と思われていたNさんは、食事によるダイエットは試みられても下半身の運動はされなかったようです。
次に何故Nさんの下半身が太く張ってしまったのかをご説明します。
体幹から左右の足に血液を送る動脈や、足から体幹に返す血液を送る静脈は血管裂孔と呼ばれる部を通過します。
血管裂孔は鼠径靱帯の下を通過しますが、鼠径靱帯とは恥骨の恥骨結節と、腸骨の上前腸骨棘との間に張る靱帯です。
ですから鼠径靱帯は、腹と大体との境を成していると言えます。
以上のことから、鼠径部を強く圧迫し続ければ血流が悪くなることはお判りでしょう?。
しかし動脈は心臓のはたらきで圧迫を受けている部を通過することが容易ですが、そうでは無い側の足から返るべき静脈血は阻止されてしまいます。
一般に[足は第二の心臓]と呼ばれる理由は、正常な歩行で膝や足首が正常に稼動すれば、筋肉も緊張と弛緩が果たせます。
筋肉が緊張と弛緩を繰り返すことで静脈血が体幹に送り返すことができるのですが、このはたらきのことを[筋ポンプ]と言います。
ところがNさんの場合、下肢の諸関節をなるべく動かさない歩き方になるため、筋ポンプは稼動しません。
返ることを阻止された静脈管は膨張し、血管壁が薄くなります。
薄くなった壁は粒子の細かい水分が染み出すことで、静脈管外に漏出することになります。
以上のメカニズムがNさんの下半身の浮腫の原因でした。
つまりNさんの下着の締め付けが根本的な原因だったのです。
初回の治療では下着を外し、入念なマッサージで本来の足の太さを取り戻し、更に種々の運動法で諸筋肉やアキレス腱を緩ませたことで正常な歩行が取り戻せたのです。
(※ 上記で下着を外しと記しましたが、下着を外してズボンを履いていただき、足の部をたくし上げての施術です。 念のため。)
ですから下着の締め付けの緩い物に替えていただき、正常な歩行を継続できれば下肢の浮腫の原因が取り去られ、後に起こる腰痛も防げることになったわけです。
若い女性がお考えになる「締め付ければ細くなる」と言う考え方は下肢では通用せず、逆に不健康になると言う実例でした。
著者プロフィール

兼田 茂和
国家資格あん摩マッサージ指圧師保有。
日常的に抱えている慢性痛に対し、その痛みの原因を追究して根本を改善することで、痛みの軽減を目指します。日々、人の命を預かる重みを感じ、ひとりひとりに合った施術で、最後まで誠心誠意施術致します。
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